アルタルフの森の近くにある三つの村には、こんな言い伝えがありました。
昔々、アルタルフの森には大きな大きなお城がありました。
ある日そのお城の中に大きな大きな龍が住みました。
その龍は暴れ、村を襲いました。
人々はその大きな龍を恐れ、一月に一度、生け贄を出しました。
龍は村を襲わなくなりました。ですが人々は自分を生け贄にされたくないために、他人の悪いところを言い合い、悪い人は生け贄になるべきだと主張し始めました。
そして寒い寒い冬の日の事です。ある女の子と男の子が生け贄にされてしまいました。
その女の子の名前はシャート、男の子の名はアルナイル。二人は双子の兄妹です。
ごく普通のおうちでしたが、2年前お父様が亡くなられ、お母様が病気になってしまいました。そして5ヶ月前とうとうお母様も亡くなられ、2人きりになってしまいました。
村の人達は、親のいない二人なら、悲しむ人はいないだろうと言って生け贄にしてしまいました。
アルナイルとシャートは手足を縄で縛られ森の中においていかれました。
ドスンドスンと大きな足音が聞こえ、木々に止まっていた鳥たちが一斉に飛んでいきました。
低い声が聞きました。
「お前らが生け贄か?」
シャートは震えだしてしまいました。それを見たアルナイルが泣くのを止め大きな声をだして言いました。
「私どもが生け贄です。私どもを食べ、村を一月襲わないでください。」
アルナイルは声のほうをじっと見て言いました。シャートも声のほうを向き頷きました。
「ワシは人は食わん。今までであった者たちはお前のように勇敢ではなかったぞ。ワシの声を聞くと震えて命乞いをするものしかおらんかった。面白い者たちよ、ワシの城へ来い。今まで生け贄にされた者どももおるぞ。」
低い声の主、龍はアルナイルとシャートの縄を解き、二人を背に乗せ飛びました。
城に着くまでに龍は自分の名前はアルファルドで、村を襲った訳ではなく、遊んでいる子供たちを見て、自分も仲間に入りたくて子供たちの踊りをまねして踊ったら、村を襲いに来たと勘違いされてしまったのだということを寂しそうな目で教えてくれました。
城でも生活は楽しいものでした。村の人たちはピリピリしながら生活をしているので、城での生活のほうが気楽で楽しく感じられました。
アルナイルとシャートが生け贄にされてから、9ヶ月が経ったある日、アルナイルが病気になりました。生け贄にされたお医者様がアルナイルの看病をしてくださると言ってくれました。
シャートはいつもアルナイルと一緒にいたので、独りになるのは初めてです。
その晩シャートは一人で城の中を歩いていました。シャートは壁に寄りかかりました。
ギィィィィィ
と音を立てて、寄りかかっていた壁が開きました。
シャートは恐る恐る周りを見ました。そこは小さな部屋でした。
5日後元気になったアルナイルとその部屋に行きました。ですが壁は開きませんでした。
アルナイルはシャートが夢を見ていたのではないかといいましたが、シャートはあると言い張りました。シャートが部屋を見つけたのは夜なので夜に行く事にしました。
その晩そこへ行ってみると、壁がギィィィと開きました。
シャートは得意気にアルナイルを見ました。アルナイルは驚いて声が出ませんでした。
シャートとアルナイルがその部屋を改めて見回すと、そこには誰かがいました。アルナイルが話しかけてみました。
そしたら聞き覚えのある低い声で、
「お前らか、その時が来たのか。」
と言って、こちらを向きました。
アルファルドです。人の姿をしていましたが、確かにアルファルドです。
アルファルドは二人に理由を話してくれました。
「ワシは本当は人だったのだ。だがこの森で、ある小屋に入ってしまった。そこは魔女の家であった。ワシは魔女に呪いをかけられ龍になった。夜には人の姿になる。だがその姿は消して見られてはならない。だが、そのあと魔女が言った。
『ある双子がお前の正体に気付くであろう。その者たちだけには正体がバレてもかまわない事とする。そやつらにバレたら私の所へその者たちを来させろ。そのあとは貴様には教えん。』
ワシはそのときは何の事だかわからなかったが、生け贄になっているお前らを見た時わかったよ。すまないな。巻き込んで。いや、だが大丈夫だ、行かなくてもいいだろう。お前らに何かあってはイカン。」
アルファルドはそういいながらも大きなため息をした。
「そこへ行くよ。そのお家はどこにあるの?」
アルナイルは聞きました。
アルファルドは
「いや、いいんだよ。」
と、いいました。でも二人はあきらめません。
「もう行くって決めたんだ。教えないならそれでもいいさ。そのお家を探せばいい。」
アルファルドはまた大きなため息をしました。
「わかったよ。この森は危険だ。家まではワシが送ろう。」
と言って眠ってしまいました。
次の日3人は魔女の家に行きました。
小さな古いおうちでした。
中から一人のおばあさんが出てきて言いました。
「そうだ。そいつらが私の言った双子だ。」
黒いマントを羽織ったおばあさんでした。
アルファルドは城へ帰っていきました。
シャートとアルナイルは魔女の家に入りました。
シャートは魔女に聞きました。
「呪いを解くことは出来ないのですか。」
魔女はゆっくりと話しました。
「ああ。アルファルドだけなら無理だろうな。だが、お前たちが協力するというのなら話は別だ。命を落とす事になるかもしれん。それでもあいつを助けたいのか?」
魔女は脅すように言いました。
でも二人は魔女を睨み
「一度生け贄にされたんだ。死ぬなんてこわくないやい。」
と、大きな声を出して言いました。
魔女は今度はにっこり笑って言いました。
「あいつは孤独だったのだ。だから私は呪いをかけた。信じられる者がいなくては解けぬ呪いを。ああ、お前らなら大丈夫だ。
奴の呪いは、簡単には解けん。しっかり聞け、間違えては死ぬ。よいな?」
二人はうなずきました。
魔女は教えてくれました。
『この森のずっと北東にあるミラの山を登れ。そこにある聖水を持って北の国へ行け。北の国にある神殿にその聖水をささげよ。その神殿で呪いを解く儀式をすれば、アルファルドの呪いは解けるだろう』
城に帰った二人はそれをアルファルドに伝えました。するとアルファルドは恐ろしそうにいいました。
「ミラの山は大妖怪のいるところだ。お前ら二人には危険じゃ。ワシ一人で行く。」
ですがシャートは言いました。
「魔女が言っていたの、聖水は一人でとりに行ってはいけないと。理由は教えてくれなかったけれど。」
アルナイルも言いました。
「神殿も一人じゃダメだ。儀式は一緒に旅をしてきた仲間もいなくちゃいけない。」
アルファルドはまた大きなため息をしました。ですが、目は悲しそうな目ではありません。少しうれしそうな目をしていました。
それからアルファルドは生け贄にされた人たちに旅をすると言いました。アルファルドがいないと、この森は危険です。生け贄にされた人達は村に帰ることになりました。
それから数年経ってから、アルファルドたちは村に帰って冒険の話をしました。そしてアルタルフの森の周りには三つの村が出来ました。村の名前はそれぞれシャート、アルナイル、そしてアルファルド。
いつか機会があれば三人の冒険の話をいたしましょう。
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