あの銀河のあの星がいい。あの星は地球と同じつくりをしている。
ずっとずっと未来の、だれも西暦なんて年の数え方を忘れてしまったころ、この平凡な地球の上で、計画は進んでいた。
『人間は同じ失敗を繰り返すのか』
大きく文字が机の上に立体で映し出されていた。
そこは地下室のようだった。
丸い机を囲んで座っている人々は、その映し出された文字のたった一つの薄明かりに顔を照らされながら何かの計画の相談をしている。
だいたい10人ほどだ。
一番偉そうな席に座っている男が、静かに言った。
「何年も昔、我々の愚かな先祖たちは、地球温暖化現象だけで慌てふためいた。だが、今一番友好の深い地球外生命『リフェ』の者たちの協力により、我々は助かった。」
その男の向い側の席に座っていた女が口を開いた、
「その『リフェ』の奴らは信用できないわ。昔の本にもあったけど、
このような作業には手馴れているようで、我々は知合ったばかりだというのに、なぜか、何年も昔から我々を知っているような、そんな気にさせる。
この文章を見て私はすぐに思った。こいつらが地球温暖化になるよう仕組んだって。」
少しざわついた。そう考えていたものはその女だけではないようだ。
先ほどの男が周りを静めた。
「そんな事この際関係はないだろう。我々は新しい地球をつくり、同じように時を進め、今地球で言われている昔起こったことが正しいかどうか調べる。そして我々は新しく創った我らの地球の神になる。」
拍手と歓声が沸きあがった。
「ロイド、星は見つかったか。」
先ほどの女の隣に座っていた男がうなずいた。
「ええ、いくつかの候補が挙がりました。李(リー)、例の物を。」
李と呼ばれた男が立ち上がり男に何かを見せた。
「うむ。」
男はじっくりとそれを見ていた。
「決まりましたか?」
ロイドが聞いた。
「あの銀河のあの星がいい。あの星は地球と同じつくりをしている。」
李は男から紙を受け取ると、元の席に戻っていった。
「伊住(いずみ)、不死の装置は出来上がったか?」
「あと少しで完成でございます。」
伊住は他の者よりぎこちない英語で答えた。
「順調だな。よし、では解散しよう。皆、自分の研究を進めろ、終わったものは磨きをかけろ、我々は神になる。」
「おお」と、歓声が上がり、手元の資料を集め、それぞれ帰っていった。
次の会議もその次の会議も何も問題も無く順調に進んでいった。
「ついにこの日が来た。10年の研究は長かった。実行は明日だ。
失敗のないよう頼むぞ。順序一つでも間違えば、10年の研究が水の泡になるのはもちろん、我々の命まで危ない。」
皆、顔に冷や汗を掻きながらうなずいた。
伊住が手を上げて
「よろしいですか?」
と聞くと、男は黙ってうなずいた。
「脳の不老の薬が出来上がりました。ですが外見の不老の薬は無理でした。不死の装置の方は何かで試すわけにもいかず(ここでだれかが「そりゃそうだ。今この星には人間以外何もいない。」と言い、皆笑った。)安全の方は保障できません。」
男は満足気ににっこり笑い
「リスクは承知の上だ、気にするな。」
といった。
それからそれぞれの研究結果を発表し合い、男の『我々は神になる。』の一言で解散した。
「おお、研究は成功だ。良くやった、お前たち。だが、お前らは用済みだ、消えろ。」
「あとは不老不死になれば本当に研究は完成する…。」
男が血のような液体の入ったベッドに入り、ベッドの脇のボタンを押した。
ギ、ギギギギ
妙な音が鳴り、男は不安になった。『安全の方は保障できません。』という伊住の言葉を思い出した。
急いでベッドから出ようとするが、恐怖により体が動かなかった。
ドン
大きな音がして煙が出てきた。
中には何かの干からびたようなカスが入っていただけであった。
それから何年も何年もたった男のつくった地球
暗い地下室の中で
『人間は同じ失敗を繰り返すのか』
と映し出された文字のたった一つの薄明かりに顔を照らされながら何かの計画の相談をしている。
あの銀河のあの星がいい。あの星は地球と同じつくりをしている。
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