十年前、私が六年生だった時、私と親友の美歌(みか)ちゃんは、同じクラスの鷹美 勝治滝(たかみ しょうじろう)君が好きだった。
美歌ちゃんは二重だし、声が綺麗だし、かわいいし、明るいから、クラスの人気者だったし、男子からモテモテだった。でも私は、桜凪(おうな)という名前に似合わない、お母さん譲りの一重に、お父さん譲りの太い声、顔は何をしても浮腫んでるし、人見知りも激しいからなかなか友達もできない。めったに笑わないからくらい子って思われてると思う。
それに美歌ちゃんは勝治滝君と仲がいい。わたしが勝治滝君と話したことといえば、
「何の本読んでいるの?」
そう勝治滝君が言ってくれた事。私は恥かしくって本の表紙を見せただけだった。そしたら勝治滝君が
「あっそれ俺も読んだよ!ちょっと泣いちゃったけどね。」
そういって舌をちょっと出した。そのとき私も泣いていたからクスって笑い返した。それだけの話。
勝治滝君は人気者だった。かっこいいし優しいし、みんながすぐに打ち解けられるような人だった。私なんかが勝ち目がない事ぐらいわかっているけど、こんなところで引くような思いじゃなかった。
勝治滝君を好きになったのは三年生の頃、自己紹介のとき、
「私の趣味は花でいろいろなものを作る事です。」
って発表したら、似合わないって笑われた。でもその時、勝治滝君だけは笑はなかった。
 単純だけど、それから勝治滝くんをずっと見ていたら、どんな人にも優しくて、自然を大切にするいい人なんだってわかった。
 それ以来ずっと好きだった。でも卒業式の日、私と美香ちゃんが帰っていたら、勝治滝君があとを追ってきた。ずっと下を向いて、美香ちゃんに、
「これ、あげる。」
と一言言って走って戻ってしまった。
 美香ちゃんの手には真っ白のエーデルワイスがあった。勝治滝君の家は花屋さんで、花には花言葉をつけるということで有名。
 『大切な思い出』『初恋の感動』とカードに書かれているのを見て、美歌ちゃんはその真っ白なエーデルワイスを見つめ、顔を真っ赤に染めていた。
 それから勝治滝君にはあっていない。勝治滝君は受験をしていたから、会う事が無くなってしまった。
 十年たった今でも勝治滝君のことが忘れられない。
ちょうどその時メールが届いた。同窓会の誘いで、勝治滝君からだった。
私は周りを見回した。アレンジメントされた花々、散らばっている雑誌には、『二十二歳の人気フローリスト、阿野雨!彼女の素顔に迫る!』と書かれている。私の仕事はフローリスト、桜凪をローマ字に直して阿野雨という芸名を作った。
好きな仕事をしているおかげで、私の性格は明るくなった。声も性格同様綺麗な声になった。けれど、顔だけはずっと変わらない。
数ヵ月後、私は赤いアネモネの花束を持って、同窓会の行われる学校まで行った。
赤いアネモネの意味は『君を愛す』『恋の苦しみ』など。
私が学校へ行くと、勝治滝君一人が立っていた。それもアネモネの花束を持って。
「勝治滝君?」
私が声をかけると、勝治滝君は私の方を見て、
「これ、迷惑じゃなかったら。」
といって花束を渡した。迷惑じゃなかったらってどういうことか、私にはわからなかった。
「あ、私もこれ」
考える前に手が出た。そしたら勝治滝君は、アネモネに負けないくらい真っ赤な顔をして受け取った。
「…俺に?お前、雷太は?」
雷太は私の幼なじみの男の子。四年生まではよく遊んでた。
「別に雷太好きじゃないよ?」
私が言うと勝治滝君は、明るい顔になって
「美香に上げたエーデルワイス、本当はお前に渡したかったのに、顔を下げていたから間違えて渡しちゃって、ごめん
本当はずっとお前のことが好きだった。お前の笑顔が頭から離れないんだ。」
ずっとぶさいくで大嫌いだった顔が、こんなにも好きになれた。

「勝治滝、またあれなくなっちゃったよ、早く入荷してよー。」
 あれから私と勝治滝は花屋を経営している。私は花屋をしながらフローリストの仕事もしている。そして今一番売れているのは、アイビーゼラニウムと、白い朝顔とアネモネのアレンジメント。花言葉?花言葉は自分で調べてみてね。