毎年この時期よく雨が降る
梅雨
そういう現象
それと同じに
毎年この時期よく会う娘がいる
舞
そういう名前
舞
「舞」
「なぁに?歌夜。」
私の呼びかけに答えた娘。舞。
私より高くてかわいい声。
私より美人で優しい舞。
私より、私より。
私より何でも優れてる。
私より、私より。
「今日はあやとりをしたい」
「ええ。そうしましょう。」
笑顔で答える舞。
遊びはほとんど舞が教えてくれた。
舞は初めての友達。
舞は私よりも背が高い。
舞は私よりも年上に見える。
舞の歳は知らない。
「そこじゃないわ、歌夜。ここを、こう。そう。出来たわね。」
お母さんみたいな舞。
でも、舞の歳は知らない。
でも、何で梅雨のとき以外会えないのか知らない。
でも、何でいつも私のいるところにいるのか知らない。
「舞」
「なぁに?歌夜。」
「今日は舞について知りたい」
「それよりも今は遊びましょう。それは今度教えてあげる。」
いつもそう。
今度今度今度。
今度っていつ?
「今度っていつ?」
「今度は今度よ。じゃあ今日はお人形遊びをしましょうか。」
いつもそう。
私の知りたい事はいつも教えてくれない。
「嫌だ。今日は舞について知りたい」
今日は引かない。
少しくらい我侭言ってもいいでしょ?舞。
「わかったわ。何が知りたいの?」
舞が、舞がやっと舞について教えてくれる。
舞が、舞が初めて舞について教えてくれる。
「舞はいくつなの?」
「いくつに見える?」
「十と五つ」
「じゃあ十五歳くらいよ。」
「答えになってない」
舞は脹れる私に笑いかけるだけ。
舞に何を言ってもごまかされる。
舞にこれ以上聞いても教えてくれない。
舞にする質問を変えなくちゃ。
「じゃあ、舞は何で梅雨のとき以外会えないの?」
「会えないわけじゃないわ。梅雨の時期偶然会うのよ。」
結局わからない。
舞について。
舞について。
舞について、今日わかった事。
舞の歳は十五歳くらい。
舞は梅雨のときに偶然会うだけ。
舞の親について、母様も父様も仕事仕事。
結局本当に知りたい事は分からない。
舞について。
舞について。
「舞」
「なぁに?歌夜。」
「今日は舞のやりたい事をしたい」
舞が驚いた顔をした。
舞が考えてる。
舞は何をしたいんだろう。
舞の遊びたい遊びで遊んでみたい。
「じゃあ、絵を描きましょうか。」
「絵?なぁに、それ?」
「そうね、歌夜は絵が初めてだったわね。」
「うん。それなぁに?」
「こういうものよ。」
舞はそういって線を書いた。
舞の書いた線が形になった。
舞の書いた形が物になった。
舞が物を作った。
舞の作った物は書いてある物。
舞の作った物は物じゃない物。
「これが、絵?」
「そうよ。周りにあるものも、現実にはないものも描いていいのよ。」
「なんでも?」
「なんでも。」
「難しそう」
「じゃあ、私が一緒に描いてあげるわ。」
私の手の上に舞の手が重なった。
私と舞が線を書いた。
私と舞の書いた線が形になった。
私と舞の書いた形が物になった。
私、物作れた。
「楽しい」
「でしょう?」
舞の笑顔。
舞の笑った顔は久しぶりな気がした。
舞の困った顔
舞の驚いた顔
舞の優しい顔は見たけど
舞の笑った顔は五日ぶり位。
「舞」
「なぁに?歌夜。」
「今日も絵を描きたい」
「ふふふ。最近歌夜は絵ばっかりね。」
「うん。絵、上手になったよ」
「そうね。じゃあそろそろ一人で描いてみましょうか。」
「うん。がんばる。」
初めて一人で絵を描く。
初めて舞と一緒じゃなく絵を描く。
初めてだ。
初めてだ。
「描けた」
「どぉれ?素敵ね。」
うれしい。
舞がほめてくれた。
舞が笑って素敵って言ってくれた。
「舞」
「なぁに?歌夜。」
「舞」
「なぁに?歌夜。」
「舞」
「なぁに?歌夜。」
何日も絵を描いた。
何日も絵を描くうちに
何枚も絵が出来た。
何枚もの絵のうち
何枚も舞を描いた。
「舞」
「なぁに?歌夜。」
「今日は舞に私を描いてほしい。」
「え?」
「舞に私を描いてほしい。」
「私が歌夜の絵を?」
「うん。舞の絵、私いっぱい描いた。だから、今度は私舞に描いてもらう。」
舞困った顔した。
舞悩んでる顔した。
「いいわ。描いてあげましょう。」
「これが私?」
「そうよ。歌夜は自分の姿を見た事がないでしょう。」
「うん。でも舞の描いたこの絵が私の姿だよ。舞ありがとう。」
「舞」
「舞?」
梅雨、終わっちゃった。
梅雨次いつ来るかな?
舞、また会えない。
またここで一人。
「舞ちゃん遊ぼう。」
「うん、待って凉ちゃん。」
「舞ちゃん梅雨の間何してたの?私はずっとテレビ見たりしてた。」
「私は頭で考えてた。」
「何を?」
「お話。」
「お話?」
「私と女の子のお話。梅雨は毎年そのお話を考えるの。」
「どんなお話?」
「私が、歌夜って女の子と遊ぶお話。」
「舞ちゃんお話好きね。」
「うん。でも頭の中で勝手に進んじゃうの。」
「どういうこと?」
「自分の考えてない事が起こるの。」
「例えば?」
「歌夜って女の子、勝手に喋るの。私の想像してないことまで。」
「えー、アハハハ。ありえないよぉ。生きてるんじゃないの?」
「えー、ふふふ。そうだったりして。」
「えー、ちょっとぉ、怖くなっちゃったぁ。」
「ふふふ」
「アハハ」
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