ある森に願いを叶えてくれるという花がありました。
その花には、昔は女姓だった言う噂がありました。



昔、雪のように白く、花のように可憐なとても美しい鈴という女性がいました。
鈴はとても働き者で人の願いを叶える事が大好きでした。
鈴の家系は貧しく村から遠く離れた山奥に住んでいました。
村の人達に人気がある鈴ですが嫁にいくつもりはありませんでした。
鈴には父親がいません。ずっと、母が女手ひとつで、育てて来てくれたのです。
その母ももう歳になるので、山奥に住んでいる母を一人には出来なかったのです。


そんなある日、鈴はいつもの様に仕事に出かけました。
村人たちが鈴を指差しヒソヒソ話をしています。
「どうしたのですか?」
と、鈴が聞いても誰も相手にしてくれず、物を売っても、何か手伝いをしようとしても、皆に無視されてしまいます。
鈴はひとまず家に帰りましたが、村人達の行動が気がかりでした。
鈴は、この事を母には教えませんでした。母に心配をかけたくなかったからです。
その夜、鈴はいくら考えてもあんなことをされる理由が分かりませんでした。
「私、何かしたっけ…でもきっと明日になればまた元に戻るはずよね!」
鈴は前向きに考えました。

ですが、次の日も、そのまた次の日もそれは続きました。
あれから何日たったでしょう、村人達の態度は、無くなる所か、もっとひどくなる一方でした。

ただでさえ貧しい鈴の家ですが、もっと貧しくなってしまいました。
貧しさのあまり、母は病気になってしまいました。
医者は鈴と母を相手にはしてくれませんでした。
鈴はついに怒りました。
いつもは温厚な鈴ですが、この事ばかりは黙ってはいられませんでした。
「もお!何で誰も何も言わないの!こんな生活もう、うんざり!…ねえ、返事してぇ!何でもいいからぁ!誰でもいいからぁ!」
そう言いながら、鈴は泣きじゃくりました。
鈴が避けられているという事実を母は初めて知りました。
鈴が泣いていても、見向きもしません。鈴の声は届きませんでした。

家に帰って寝る事にしました。母も、ずっと付いていなくても平気だと鈴にいってくれました。

数日後、母が起きても、物音ひとつ聞こえません。
「鈴が朝食を作っているはずなんだが…」
だいぶ具合がよくなったので、鈴を探しに行くことにしました。
村人達は鈴の母親の事は避けてはいませんでした。
「おや?鈴は?」
と、いつもの調子で村人が聞きました。
鈴の母親は泣きそうな声で、
「いなく…なったんだよ」
と、言いました。
村中に喜びの歓声が沸き上りました。
この村人達の反応に母は怒りました。
「何がうれしいんだ!お前達が…鈴のことを…へ、変に…避けるから!こんな事に…なったんだ!みんな…お前達の…せいで!」
鈴の母親は、興奮して、風邪がぶり返してきてしまいました。
「おいおい誤解しないでくれよ、疫病神が去ったんだ!ずい分前に占い師が来て言ったのさ、『鈴という人物がこの村の平和を乱す』ってな!」
母は情けなくなりましたこの村人達を、そして見ず知らずの人間に人生が変えられてしまった自分自身も…。


母は1人寂しく家に帰りました。
その夜、鈴の母親は夢を見ました。
鈴が森の奥に走って行きある場所で立ち止まる夢でした。
何度もそこで立ち止まるのです。まるでそこに来てくれとでも言うように。

次の日、鈴の母親は夢で鈴が立ち止まった場所に行きました。
するとそこには鈴のように雪のように白く可憐な花がありました。
「あぁ、鈴!こんな所にいたのかい!」
と言いながら鈴の隣で静かに息を引き取りました。
そう、その花こそ鈴だったのです。



今でも山奥に鈴はいます。
母と二人で何があっても永遠に…。